満を持して新天地へ〜副業は腕試しの貴重な機会
8年ほど「人生の後半戦」をテーマに探求を続けています。先日行ったセッションでとても腹に落ちたエピソードがありました。
役職定年後、3年間の副業を経て新天地へ
セッションのお相手は、上場企業に勤務され既に役職定年を経て定年までの年数を数えるタイミングのTさん。
数年前の役職定年直後からモヤモヤを幾度となく伺う機会がありましたが、今回の声は違っていました。聞くと今秋から単身、住居から300キロ以上離れた新天地で仕事を始めるのを決めたとのこと。新しい人生の分岐点から連絡をいただいたのです。
役職定年制度が運用される大組織の中で
役職定年制度とは
ご存じの方も多いとは思いますが、役職定年制度の多くは役職ごとに定年を設定しています。既定の年齢になった役職者は、社員という立場は変わらず、役職のみ退任します。平均的には55歳前後に設定されている企業が多いようですが、50歳という話も耳にしたことがあります。
この制度の目的は高齢化する組織内のキャリアパスを確保し、新たな人材の登用や成長を促して組織の活性化とリフレッシュを図ることとされています。
主要なメリットとして以下が挙げられます。
1. 組織の活性化:年長者の役職を解き、後任の若手に新たな任務、役職、責任与えることで人材の成長やポテンシャルの開花を期待する
2. 組織のリフレッシュ:体制が変化することで価値観や仕事の仕方に変化を生み、新しいアイデアや視点が採用されていくことで組織の活性化やイノベーションの促進を期待する
一方のデメリット及び課題としては以下が挙げられます。
1. 年齢による差別やステレオタイプ:優れた能力を持つ年長者が存在しても年齢だけで能力を評価することになる
2. 労働力不足への影響:年長者が役職を離れたときに”社員”として役割責任を果たせるのかなど、人数は変わらないものの役割変更の新体制で業務の継続性や生産性の低下が懸念される
社会の変化による影響
役職定年制度の大義は「若手の登用、組織の活性による競争力の強化」ということになろうかと思います。うまくいっているという声がなかなか聞かれないところ、実際の現場では運用に変化が起きています。
ひとつは雇用対策法が改正されたこと。
2007年10月から、事業主は労働者の募集及び採用について年齢に関わりなく均等な機会を与えなければならないこととなり、年齢制限の禁止が義務化されました。そんな状況下で年齢のみでの処遇検討は近年の潮流に合わなくなってきたということです。
さらには2021年に高年齢者雇用安定法が施行されました。
65歳までの定年延長義務に加え、70歳までの就業機会確保の努力義務が加わったのです。極論を言えば、若手の育成や新体制による効果に注目した施策である役職定年制度が、数の原理でも軽視するには少なくない年長者のパフォーマンスとモチベーションに気を配る必要性への認識を高めたということが背景にあります。
役職定年を迎えた当事者は
では当事者はどのように捉えているのでしょうか。もちろん個人差や価値観もまちまちですが、役職定年を迎えた後は、特別な役職についていない一般の社員、1人の専門職となるわけです。
これを比喩的に”ある目的や人の指図に添って、大勢の中のひとりとして下積みの仕事をする者”として「一兵卒」と表現されたり、「定年60歳までの消化試合」という見方をする人もあります。
冒頭のTさんもその一人ですが、Tさんに限らず、役職定年された方の声にはモヤモヤ感が否めません。
「部下が遠慮してなのか仕事を振ってこないからやることがない」
「これまで参加していた会議への参加もなくなり会社の動きが見えなくなった」
「予算や目標設定もなくなってヤル気が起こらない」
社会に出て自己成長、事業の発展に尽力していた頃は、常にもう一つ、もう一段上を目指して仕事をしてきたことでしょう。もちろんその一環に昇給、昇格もあります。ところが、今の状況は荷物を下ろし(任を解き)、階段を下りて仕事をすること。
これまでとは違うスタンスに本人の戸惑いもさることながら、後任者や周囲もどう関わっていいのかわからず、ときに”腫れ物に触るよう”に向き合ってしまうというのも珍しくない話です。
こういった状況が顕在化しつつあることから、役職定年後の社員の活性化のためのアイデアは今後も多方面で試され、展開されていくことでしょう。私も、ユニキャリアとして大切だと思うことを列挙してみたいと思います。
役職定年後、働くことと向き合う上で大事な視点
役職は役割に過ぎない
階層的構造(ヒエラルキー)が染みついている人にありがちなのが、役職就任であたかも人間が上位になったように誤解することです。本人以外もそう捉える人がいるので要注意です。
役職というのは、たとえ社長であったとしても組織で担う役割・責任のうちの一つであり、以上でも以下でもありません。強調したいのは、役職と仕事のパフォーマンス、人間性とは切り離して捉えるべきだということです。
能力や意欲にフォーカスする
役職定年後、さらに定年延長として70歳まで在籍するとなると15年はあります。
企業においては引き続き組織として最大のパフォーマンスを発揮してもらうために、どんな環境を用意したらいいのか、しっかり考え、対応する必要があります。まだまだ後から「年長者」は続くのですから。
一方で個人としても、できることがあるはずです。
役職定年後に待ち受ける定年延長も視野に入れながら、どこでなら自分の望む仕事ができるのか、どんな環境を望むのかを考え、それらに向けて準備をしたいものです。昇給や昇格を目指すのではない「働き方」をするときに大事にしたいものは何か、ここから考えることをおすすめします。
役職定年後に感じたモヤモヤの正体は
Tさんから「モヤモヤの正体」を教えてもらいました。
「会社の指示でムチャやらされた」「転職した当初は大変だった」…30代の前半、大きな環境変化のもと一日も早く状況をキャッチアップして成果を出そうとしている時に自分は相当にワクワクしていたことを思い出した。
単身で新天地に行く準備をしながら、当時と同じ気持ちがよみがえってきた。定年後を見越して副業を始めて3年。社員の立場から個人事業主になって新天地に行くにあたり、この副業が背中を押してくれた。でも…副業は腕試し。本当に新しい一歩を踏み出してみると、覚悟もワクワクの振り幅も全然違う。
そう、モヤモヤの正体は「挑戦する機会を失ってしまったこと」だったのです。
仕事に求めるものは人それぞれでしょう。それでも、新天地に向かう準備を始めたTさんのように、挑戦する機会がモチベーション、能力発揮に直結するのは明白だとは思いませんか。これはきっとミドルシニアに限らず、働く人の多くに通じる真理だと思うのです。
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