【小説から考える】『終わった人』は本当に終わった人なのか
内館牧子さんによる2015年に発表された小説「終わった人」をご存じですか?
2018年に公開された、舘ひろしさんが主人公で、妻を黒木瞳さんが演じた映画をご存じの方もいらっしゃるでしょうか。少し前に小説を読んで、想像の映像ではない映画も観てみようと両方を味わった話を少し書いておきたいと思います。
それにしてもこのタイトル、酷い!
「終わった人」ってタイトル、どんな印象ですか。私は「終わってる!」という言葉を連想して、とても嫌な気分になって、当時から手に取らなかったこと、今更ながら白状します。
だって、「終わった人」ですよ。若者言葉wikiによると(今回この存在を初めて知りました!)意味は以下のように書かれています。ほら、酷いでしょう!!
①ダメだ。評価するに値しない。
②嫌だ、嫌悪感を感じる。
<経緯>
おそらく「改善の見込みが無い」「これ以上進展は望めない」→「これ以降何も無い」→「終わっている」。もともと「終わり」「お終い」という語にも、「悲劇的な結末」「改善の余地無し」「絶望的」の意で用いる用法はある。<後略>
私はこういう理解をしたんです。だからある意味、真面目に一生懸命働いてきた人に対して、そんな侮蔑的な表現はないんじゃないの?というのが根底にあり、読む前は正直なところ期待薄でした。(が!結果は面白過ぎて、当日の一気読みでした笑)
「定年って生前葬だな。これからどうする?」
これは、大手銀行の出世コースから子会社に出向、転籍させられ、そのまま定年を迎えた主人公・田代壮介の退職日から始まる物語です。仕事だけに集中して生きてきた主人公が、退職を境に、ほぼノープランで改めて社会に出たその後を、エンターテインメントとして悲壮感そこそこに、結果、前向きに描いています。
あとがきに書いてありましたが、作者が同窓会に行って見聞きした話をヒントに、取材などを重ねて書き上げた小説とのこと。「んなわけないだろー」という内容やエピソードに苦笑したり、首をかしげる箇所は正直ありましたが、ミドルシニアの先輩である主人公の心の機微の表現に、多々感嘆したのも事実です。特に、前半の主人公の行動傾向や心理描写には現実感を持ちました。
内容はネタバレになるので触れませんが、エピソードとしては定年数年前からの会社での居場所、退職後に得た時間の使い方、人との関わりと家族や社会の自分に対する扱いぶりなど…。あぁ、主人公の田代さん!退職前にユニキャリアを知って、いろいろ考えたり行動しておければよかったのに…と何度思ったことか笑
その後をどう考えるかは、これからをどう生きるかというのと地続き
言うまでもなく、相当な高齢社会です。仮に65歳で定年退職したとして、2030年時点の平均寿命的に男性はその後17年、女性は23年あります。
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/zenbun/03pdf_index.html
さらに65歳定年までの間、今と同じ職場で同じ仕事ができる環境や条件の人ばかりではないという現実。「どうする仕事!?」と「いや、仕事だけが人生じゃない!」という心の声を聞きながら、さて、どうしましょうか。
私は、誰もが思う以上の「しあわせ」を感じる人生であるといいと願っています。正直、仕事をしてもしなくても、どこで誰とどのように暮らそうと自由だと思っています。そして、引き続き長寿が進む世の中では、雇用主との契約終了のある環境がどうなることを意味するのかを知って、準備しておくことが必要だと思うのです。
なぜなら…今の社会は「いつからでもやり直しができる」には、まだまだ難易度が高いから。できればシームレスなキャリアを考慮したほうが、その後がスムーズだからです。ということで、「終わった人」の主人公の人生を追体験しながら、考えてみてはいかがでしょうか。
「終わった人」は、確かに終わった人だった
ちなみに「終わった人」は、絶対に小説をおススメします。先に書いたように、ミドルシニアの先輩である主人公の心理描写などが、作品の醍醐味だと思うからです。ちなみにAudibleもあります。
この段落の見出し、これは私の読後の一言です。どういう意味か…それは言えない笑
本を読んだ人と、話したい。
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