「ピボット」で見つける新しい扉
「ピボット」(pivot)という言葉がキャリアの文脈でも使われるようになって久しく感じます。
比喩としてビジネス界隈で「方向転換」「路線変更」といった意味で使われるようになったのはもう少し前でしょうか。事業が当初の計画、想定どおりに展開しなかった場合「ピボットして企業の存続を図っていく」というように使われますね。
その時のポイントとしては、もっとうまくいく事業を考えゼロベースでスタートするのではなく、これまでの知見やリソースを活かして転換する、まさにバスケットボールの技のひとつであるピボットをするということです。
バスケットボールでは、左右の足どちらかを軸足とし、その軸足をコートにつけたまま動かさなければ軸足ではないほうの足は自由に動かすことができるというルールがありますね。つまり自分のどちらかの軸は保持しつつ方向転換するというものです。
キャリア、そしてライフにもピボットの発想を
私はキャリアについてピボットの考え方を支持しています。職業紹介の方が歩んできた道を進ませようとピボットの発想がないケースを過去に多く見てきましたが・・・令和の昨今はどうなんでしょう。
そんなことを考えていたら、一度お会いしたことのある方の書籍に出会いました。
キャリアとピボットから更に拡げた「ライフピボット」。紹介にはこんなふうに書かれています。
「人生100年時代」と言われるように、私たちの寿命は長期化する反面、ライフスタイルはむしろ短期化し、かつてのように1つや2つのゴールを目指すような未来は描けなくなりました。変化の早い激動の時代にあっては、いくつもライフスタイルを転換(ピボット)しながら生きることが当たり前になりました。
本当にそうですね。自分が変化したいかどうかではなく、自分が適応している、しようとしている対象の変化が激しい時代です。好むと好まざるに関わらず向かう先を見直すことも必要になってきています。
そのときどちらの方向へ転換するのか。考えてから行動することも大事な一方、動いていくうちに方向が定まっていくというのもあるのではないか。ある日、タクシーの運転手さんと話す中でそんなふうに再認識したお話をご紹介します。
ピボット的キャリアチェンジの例:ある日のタクシーの運転手さん
ある日タクシーに乗った私は、運転手さんの第一声にいい意味でのビジネス感、というか品を感じました。そこで、つい話しかけ(毎度ながら)ライフストーリーを伺ってしまいました笑
- もともとは上場企業の広報をしていたこと
- 妻の親が認知症になって介護が必要になり、妻が親元へ週に何日か通うことになったこと
- そのためお子さん2人の4人家族の生活のために時間が確保する必要になったこと
- 退職金の積み増しも考慮して定年前で早期退職したこと
- 時間が自由になるタクシーの運転手になったこと
運転も丁寧でビジネス界の経験も十分にある。さらにこのコミュニケーション力!
ハイヤーの会社を経営する友人から依頼されていた運転手の推薦(スカウト)にピッタリと考え、さらに話を聞いていきます。
- 運転手の仕事は半年ほどは慣れなくて大変だったが今は大丈夫
- 会社は時間調整に理解を示してくれて働きやすい
- 来年5月で65歳、定年
おっ!これはスカウトに進めそうか!?とワクワクしながら話を伺っていきます。
・妻の親のこともあって介護職員初任者研修を修了した(えっ?)
・定年後は介護タクシーの運転手をしようと思っている(ええっ?)
・施設の面接も受けて、ちょうど先日合格通知が来たところ(そうなのか!)
スカウトには至らず残念な出会いではありましたが、ミドルシニアのピボットするキャリアの実際を垣間見た気がして、とても興味深く感じました。
それがご本人にとって望んだ最高の結果かどうかはわかりません。でも流れ着いてしまった感の意図しない状況といった感は全くなかったのです。
ピボットしながら探っていく自分だけの路
人生は良くも悪くも思い描いた流れでいけるばかりではありません。願う方向転換もあればやむなきものもあるでしょう。でもこの方の転換は、自分の知見や問題意識を軸に経験のない業態や領域にキャリアを展開させていく、鮮やかなピボット的キャリアだと思うのです。
こういったピボット的キャリアは私たちの人生において新しい扉を開けてくれます。
「こうしたい」と考え見つけた路を歩むこともあれば、必要に応じて拓いた世界の先に、思いもしなかった扉の前に立つこともあるわけです。
「路があるから進む」のか「進むから路が見える」のか。
いずれにしろ私たちは選択の連続の先に、一人ひとりユニークな旅路を歩んでいるのです。
あなたの未来にもきっと、まだ見ぬ世界で開けられるのを待っている扉があることでしょう。
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